日本ALS協会島根県支部は2010年9月13日に島根県健康福祉部の錦織厚雄部長に対し、ALS患者の療養環境の改善について6項目の要望をしました。これに対し10月20日に錦織部長から回答を頂きました。
回答を受けるに当たって、ホームヘルパーの痰の吸引講習を石見部(県西部)でも実施するなど、難病対策における県内の地域間格差解消を要請しました。
回答内容は下記をご覧ください。
島根県より頂いた、要望書に対する回答(全文掲載)
日本ALS協会島根県支部要望書に対する回答 2010,10,20
要望1 医療と行政の連携強化
告知時の説明内容は厳しい事柄が多く、患者が不安を解消できたり希望を持てる説明が必須である。ALSが進行性の病であることに鑑み、円滑で速やかな療養生活への移行が必要。
①告知のカンファレンスの時に難病医療専門員、保健師、ソーシャルワーカー等を同席させる。同席は患者側の希望に沿って、告知時あるいは告知後を選択できるようにする。
②患者個々に担当保健師を決め、スムーズな行政手続きで種々のサービスが受けられるよう、療養に向けた進捗管理も実施し、担当保健師が異動する際には円滑な引継ぎに努める。
③難病担当保健師の増員
<回答>
①今年の日本ALS協会島根県支部主催の意見交換会を受け、告知後に適切な支援が行えるよう、保健師の研 修を実施したところであり、今後、難病拠点病院、協力病院(鳥取大学病院等を含め)に出向いて、患者、家族の同意を得て告知後早期に保健所に連絡して頂け るよう改めて協力を依頼することとしている。連絡を受け、告知後速やかに相談に応じる体制が取れるよう、難病医療相談員や各保健所と協力して進めていく。
②新旧の担当保健師が同伴訪問して直接面接し、円滑な引き継ぎに努めている。
③「財政健全化基本方針」に基づき職員の定員削減を進めている中、難病担当保健師を増員するのは難しいが、保健所内での業務分担の見直しや専門研修の実施などにより、難病相談体制の充実に努めたい。
要望2 意思伝達方法の普及
コミュニケーションが困難を伴うALS患者を支援するため、患者個々にあったコミュニケーション支援策を策定すると共に、特に入院患者に対しては看護師や医師とのコミュニケーションを円滑に進める必要がある。
①コミュニケーションボランティアを病院へ派遣する。
②ボランティアの養成
・保健所で検討中の計画を加速
・地域貢献に取り組む地元大学(島根大学・県立大学)との連携
③コミュニケーション支援機関づくり
自治体、医療・福祉、日本ALS協会島根県支部、障害者のIT支援に携わるNPO(松江市・プロジェクトゆうあい など)、IT企業、学識経験者(脳波スイッチ開発者 など)、作業療法士らが連携し、患者個々の例にあった対応を検討し実現を図る。
<回答>
①②県では作業療法士を中心に意思伝達装置の研修を実施すると共に、患者・家族に機器に慣れてもらうた め、装置を県で購入し、無料貸出事業を昨年度から開始した。会話困難な患者のQOL向上を図るため、コミュニケーションボランティアの養成講座を9月29 日に初めて実施した。2回目は体験講座として保健師の訪問等に同行して頂く予定である。
病院への派遣については、医療機関の受け入れ態勢、本人・家族の要望、ボランティアの登録など多くの課題があり、今後検討していくこととしている。
講師派遣や受講生の募集については、島根大学や県立大学の協力を得て実施している。
③患者個々にあったコミュニケーション支援については、介護保険サービスと県の難病事業などを組み合わせ て取り組みを行っているところである。今後、障がい者のIT支援に携わるNPOやIT企業、学識経験者との連携についても先進的な取り組みをしている他県 の状況を参考にしながら検討していきたい。
要望3 情報提供の仕組み作り
患者アンケートによると、治療法、QOLなど希望をもたらす情報が不足しているとの結果が出た。原因不明、治療法なしとされるALSでも、最近は原因や治療法、QOL向上の研究が進んでいるが、患者や家族に十分情報が伝わっておらず、患者間に情報格差が存在する。
①医師、ケアマネ、保健師、訪問看護師、ALS協会等で連絡会議を設けて情報共有し、患者や家族に速やかに情報提供する。
<回答>
①保健所では日本ALS協会島根県支部発行のJALSAしまねを訪問の際等に配布したり、難病拠点・協力 病院の医師、訪問看護ステーション協会、患者団体、関係行政機関等で組織する島根県難病医療連絡協議会や各圏域の難病医療連絡協議会で情報交換等を行い、 情報の共有化を図っている。
今後、最新の治療法についても情報共有し、患者・家族へ速やかな情報提供ができるよう関係機関へ働きかけていく。
要望4 社会による介護の充実
患者アンケートによると、家族中心(特に配偶者)の介護、老老介護への不安などが多く指摘された。ヘル パー不足、とりわけ夜間、深夜のヘルパーのマンパワー不足と、痰の吸引ができるヘルパーの養成が急務である。これらの状況を鑑み、県としてできることとし て下記の点を要望する。
①保健師、ケアマネ等のコーディネート力量向上
②保健所による吸引講習会の充実
③ヘルパーの吸引手技の評価と再講習
<回答>
①保健師については、毎年度、中央で開催される難病専門研修に派遣し、最新の知識や情報、全国の先進的な取り組みについて情報収集し、その成果を保健所担当者に復命し、資質向上に努めている。
ケアマネについては保健師との定期的な連絡会や情報交換を行っており、今後もALSに関して理解を深めてもらうよう努めていく。また、ケアマネ研修においては、医療と介護の連携を図るなどマネジメントの質の向上に努めているところである。
②保健所による痰の吸引講習は、現在、要望がある松江・出雲・隠岐の3つの保健所で実施している。昨年度、効果的な実技講習が行えるよう、痰吸引モデル人形を購入し活用している。今後も、実効が上がる講習会の実施に努めていく。
③ヘルパーの吸引手技の評価については、かかりつけ医、訪問看護師が実施し、適正に指導することとされているが、県としても、ヘルパーによる吸引技術の質が向上するよう、他県の先進事例等を参考にして、研修の評価や再講習の充実について検討していきたい。
要望5 看護・介護スタッフが足りない病院への職員過配支援
コミュニケーションが困難で、人工呼吸器を装着する寝たきりの患者が多いALS患者にとって、難病病棟においてさえも夜間の看護職員が患者15人に対し1人という現実は厳しく危険を伴う。
① 看護、介護職員の過配に伴う病院への財政支援(病院側から希望があれば)
要望6 寝たきり回避でQOL(生活の質の維持や向上)確保と余病防止
難病病棟に入院するALS患者は人工呼吸器を伴ったり、看護・介護職員の不足や、病院側の方針でQOL向 上に有効な外出や散歩ができる例が少なく、患者の多くは沈下性肺炎などを繰り返しQOLの低下を招いている。こうしたことを避け、患者のQOL向上と生き 甲斐や楽しみを確保する。
① 看護師の派遣
② 看護師過配のための財政支援
<回答>
①②入院施設における必要な看護師の配置基準は、医療法や診療報酬の算定用件として国の制度のもとに基準 が定められており、医療機関に対してもこの基準が看護師配置に大きな影響を与えている。国の制度を越えて、看護師配置に影響を与えるような県独自の財政支 援というのは現実的ではない。外出や散歩など患者のQOLの向上に配慮した取り組みや、夜間における基準以上の手厚い配置をすることは、医療機関の方針に 委ねられている。
また県内いずれの病院も看護師確保に苦慮しており、特定の病院からの看護師派遣や加配措置も実現が困難である。
県としては、本県の看護師総数の拡大に向けて引き続き確保対策に取り組んでいく。
なお、人工呼吸器などを装着して在宅療養されている重症難病患者の介護をしている方の負担を軽減するため の一時入院が必要と考えられ、昨年度から県では在宅重症難病患者一時入院支援事業を開始した。この事業は、医療機関が一時入院を受け入れやすくするため、 看護師加配相当の補助金を年間28日を限度に財政的支援をするものである。一時入院においては、患者と看護師との橋渡しや見守りなどを行う介護職員等の配 置について医療機関に協力依頼することとしており、今後も利用者の意見を聞きながらよりよい制度にしていきたい。
さらに、長期入院患者に対しても、コミュニケーションボランティアの育成等、少しでもQOL向上につながるように難病連絡協議会等で検討していく。