令和3年3月26日付で県健康福祉部健康推進課より連絡があり、例年開催されている『島根県難病等対策協議会』は、新型コロナウイルス感染症対策のため中止になりました。令和2年度協議会は資料を読み、4月30日までに各委員から意見を返す形となりました。当支部は4月8日に委員意見を提出しています。
資料の中から、ALSに係わることを中心に抜き出して報告します。提出した委員意見に対する県の回答を待っていましたが、コロナ対応で忙しいのか、8月16日現在、寄せられておりません。今後、回答が寄せられましたら、この場にて報告します。
(2021/8/17 景山敬二)
令和2年度島根県難病等対策協議会資料
- 指定難病医療受給者数の推移について
- 難病医療提供体制整備事業について
- 難病診療連携拠点病院等の指定状況
- 在宅重症難病患者一時入院支援事業利用状況
- 在宅人工呼吸器使用特定疾患患者訪問看護治療研究事業利用状況
- 難病医療提供体制整備事業報告
- 難病相談支援事業等について
- 難病相談支援センター事業報告
- 保健所における難病相談・支援事業等実施状況
- 参考資料「ALS患者の早期支援体制の構築について」
- 委員からの意見等(検討、意見交換した事項)について
1.指定難病医療受給者数の推移について
【受給者数】
指定難病医療受給者数 6,428人(令和3年1月末現在)
うち筋萎縮性側索硬化症 86人(令和3年1月末現在)・・・前年度末 91人
2.難病医療提供体制整備事業について
〇難病診療連携拠点病院等の指定状況
指定はいずれも平成31年3月1日
難病診療連携拠点病院(1ヶ所) |
島根大学医学部附属病院 |
難病診療分野別拠点病院
(2ヶ所) |
島根県立中央病院(視覚系を除く全疾患群) |
国立病院機構 松江医療センター(神経) |
難病医療協力病院
(23ヶ所) |
松江圏域 |
松江市立病院、松江赤十字病院、松江生協病院、鹿島病院、安来市立病院 |
雲南圏域 |
雲南市立病院、平成記念病院、町立奥出雲病院、町立飯南病院 |
出雲圏域 |
出雲市立総合医療センター、出雲徳洲会病院、出雲市民病院、斐川生協病院 |
県央圏域 |
大田市立病院、公立邑智病院、仁寿会 加藤病院(川本町) |
浜田圏域 |
国立病院機構 浜田医療センター、済生会江津総合病院 |
益田圏域 |
益田赤十字病院、津和野共存病院、益田地域医療センター医師会病院、六日市病院 |
隠岐圏域 |
隠岐病院 |
○在宅重症難病患者一時入院支援事業利用状況
県と在宅重症難病患者一時入院(レスパイト)支援事業の制度委託契約を交わした医療機関は7圏域・24医療機関。委託医療機関名を挙げるが、すべての機関で受入れ実績があるわけではない。
患者側としては、介護者の急な発病、希望入院日・日数等には応じてもらえないのがネックとなっている。レスパイト入院の相談・申込みは、難病相談支援センター・各保健所へ。
令和2年度契約先(令和3年1月末現在)
松江圏域 |
松江医療センター、鹿島病院、松江赤十字病院、安来市立病院 |
雲南圏域 |
雲南市立病院、平成記念病院、町立奥出雲病院、町立飯南病院 |
出雲圏域 |
出雲市民病院、出雲市立総合医療センター、斐川生協病院、県立中央病院、出雲徳洲会病院、島大附属病院 |
県央圏域 |
大田市立病院、公立邑智病院、加藤病院(川本町) |
浜田圏域 |
浜田医療センター、済生会江津総合病院 |
益田圏域 |
益田赤十字病院、益田医師会病院、津和野共存病院、六日市病院 |
隠岐圏域 |
隠岐病院 |
〇在宅人工呼吸器使用特定疾患患者訪問看護治療研究事業利用状況
この事業は、筋萎縮性側索硬化症・多発性硬化症・脊髄小脳変性症等により在宅で人工呼吸器を使用している患者のうち、医師が訪問看護を必要と認める患者を対象としている。
訪問看護ステーションに訪問看護を委託し、診療報酬において定める回数を超えた訪問看護を実施する場合には、原則として1日につき4回目以降(ただし、特別な事情により複数の訪問看護ステーション等医療機関により訪問看護を実施する場合にはこの限りではない)の訪問看護について、患者1人当たり年間260回を限度として費用を支払うものとする。
利用状況表を見ると、1人の患者に複数回利用していることがわかる。
[利用状況]
松江圏域 2ヶ所の訪問看護ステーション
出雲圏域 2ヶ所の訪問看護ステーション
浜田圏域 1ヶ所の訪問看護ステーションが利用
〇難病医療提供体制整備事業報告
・難病診療連携コーディネーターの活動報告
難病診療連携コーディネーターが対応する相談件数は1,234件(令和2年12月末現在)。相談者は新規が3%、継続が97%とほぼ継続相談が占めている。相談件数の8割以上となる1,018件がALSである。ALS患者の療養環境の過酷さがうかがえる。相談内容は、病気病状がトップで、続いて意思伝達装置・治療服薬・日常生活・レスパイト入院・入転院・福祉機器・福祉制度となっている。
そのほか、個別のケース会議が53件(在宅サービス・退院前・治療選択・災害・コミュニケーションに関する支援会議)。入転院の調整が6件で、そのすべてがALSである。
*圏域別ALS患者状況(令和2年9月現在)
3.難病相談支援事業等について
〇難病相談支援センター事業報告
ヘルスサイエンスセンター島根内にある“しまね難病相談支援センター“は、難病患者・家族の各種相談やレスパイトを含む入院先の調整、就労・患者会活動支援など多岐にわたる難病患者の支援活動を行っている。
年度(令和2年12月末日現在)の総相談件数は485件(前年同月512件)。相談者内訳は、新規が118件(24.3%)、継続が367件(75.7%)である。難病診療連携コーディネーターが対応する相談と共に、やはり継続相談が多い。治療法のない、難病ならではの傾向と言えよう。相談方法では、コロナ禍のためか、面談は前年比のマイナス17.1%で、電話他が増えている。疾患別でみると神経・筋疾患は138件と全体の28.5%を占め最も多い。次いで免疫系、視覚の網膜色素変性症と続く。この傾向はここ数年変わらず、このことからもALS(筋萎縮性側索硬化症)・パーキンソン病・重症筋無力症などの神経・筋疾患を抱えての療養生活の過酷さが推し量られる。ALSのみは7件と前年度から半減している(前年度13件)。
神経内科・膠原病内科・眼科の医師等による専門相談も、新型コロナウイルス感染症対策で中止や延期になった回もあるが、各圏域で12回開催し(対面8回、リモート4回)、45の相談件数実績を残している。
支部も共催している難病サロンは、当初、各地で11回の開催を予定していたが、新型コロナウイルス感染症対策ですべて中止となった。
患者会活動支援も各会の活動が感染予防のため縮小し、交流会・総会等の開催支援の機会が減った。
難病相談支援センターは各保健所と連携し、各種相談にあたっている。
〇保健所における難病相談・支援事業等実施状況
保健所においては、『患者・家族教室』『ピアサポート・ボランティア養成』『難病医療研修』『難病フォーラム』等を開催して支援にあたっている。『患者会支援』も行い、当支部も会報や総会の案内状を県内の全ALS患者に配布してもらっている。
こちらも感染予防のため各保健所で中止になった項目も多い。難病フォーラムは、雲南保健所が幹事となり計画されていたが、中止となった。
また、『在宅療養支援計画策定・評価事業』『訪問相談事業』『訪問指導事業』で、主にALSはじめ神経難病患者の療養支援やQOLの向上にあたっている。さらに各圏域で『難病対策地域協議会』を開き、市町村や病院・訪問看護ステーション・介護事業所などと意見・情報交換を行っている。
4.参考資料「ALS患者の早期支援体制の構築について」
かねてより支部は、当協議会において、〈告知直後の難病患者の心理的ケアの充実を図ってください。我々のような難病患者は、確定診断の際の「はじめて聞く病名」「原因不明」「治療法なし」との言葉に先の見えない不安と混迷に突き落とされます。とくにALSの場合は「3年から5年」と余命宣告も受けますので、患者の喪失感はとても深いものです。多職種が一堂に会した支援者会議も開かれるのはある程度病状が進んでからであり、告知直後の不安解消にはなりません。告知直後に多職種からの支援を得られることがわかれば、患者の不安はずいぶん和らぐことでしょう。『治療法はなくとも楽に生きる』ために、告知直後のALS患者の心理的サポートをお願いします。〉と訴えてきた。
今般、島根県難病等対策協議会はALS患者の告知時からの早期支援体制づくりのため、患者・家族向けに「難病の療養相談のご案内」を作成した。その上で、3ヶ所の難病診療拠点病院と23ヶ所の難病医療協力病院へ向け、告知時の活用と、患者側の同意が得られれば、早期にしまね難病相談支援センターと各保健所への連絡を依頼した。
病院からの連絡後は、難病診療連携コーディネーターと各保健所が協力し、速やかに相談に応じることとしている。
*参考資料
5.委員からの意見等について
日本ALS協会島根県支部
令和2年度島根県難病等対策協議会 委員意見
日本ALS協会島根県支部
支部長 景山敬二
日頃より、難病対策の推進ならびにご支援にご尽力を賜り、厚く御礼申し上げます。
難病当事者として、更なる療養環境の改善支援策に次の三点を申し入れます。
- 昨年からの新型コロナウイルスの感染拡大による混乱は、収まる気配さえありません。日本ALS協会の調査では、幸いにもALS患者の中に感染者は報告されていませんが、呼吸筋にも障害が起きるALS患者が感染した場合、特に重篤に陥ると予想できます。
感染予防として、マスクの着用と手指消毒が有効とのことでしたが、一時期、全国的なマスク・消毒用エタノールの不足が混乱に拍車をかけました。医療機関には国や自治体からマスク・消毒用エタノールが優先的に回されたようですが、一部の地域では在宅人工呼吸器使用患者宅において、痰吸引時に必要なアルコール綿といった衛生資材不足も聞いております。また、在宅人工呼吸器使用患者宅では介護する家族が感染すると、患者も濃厚接触者となってしまいます。
今後も同様の事態は十分に予想されます。そこで有事の際は、県および中核市である松江市においては、備蓄したマスク・消毒用エタノール・アルコール綿を在宅人工呼吸器使用者宅・訪問看護ステーション・医療的ケア(第三号)登録訪問介護事業所へ優先的に供給する仕組みづくりを構築してください。
どのような時であっても、難病患者が不安なく療養生活が送られる体制をお願いします。
- 医療機関においては、院内感染を防ぐため、2月下旬には面会規制が敷かれ、3月に入ると県内のほとんどの病院で面会禁止になりました。厚生労働省の通達による措置であることは承知しております。
他県では複数の病院でクラスターが発生しましたが、県内では医療従事者の方々の行動の節制と努力のお陰で院内クラスターは発生していません。また、新型コロナウイルスによる死者が出ていないのは、全国で島根県だけです。その点においても、医療・行政関係者の方々に感謝申し上げます。
私たちALS患者は、その症状から、社会からの孤立感を常に強く抱いています。意思伝達装置を使い要望を伝えることができる私でさえ、家族との長期間の面会禁止はストレスがたまる精神的に厳しい期間でした。コールを押せず、自身の意思を伝えることも出来ない重症ALS患者にとっては、身体的にも精神的にも辛い期間であったと推察します。
私はたまに、病棟スタッフから「そんなにイライラしないで」と声を掛けられました。あの状況下では面会禁止は妥当な措置だったと考えますが、医療関係のかたは、入院患者の家族にさえ会えないイラ立ち・無念さ、患者家族の心配する気持ちをご理解ください。
- 昨年7月23日に報道された京都市ALS患者嘱託殺人事件は、ALS患者・家族のみならず社会に大きな衝撃を与えました。
報道後、しまね難病相談支援センターには患者家族から関連の相談が増えたと聞き、県外にはうつ症状を呈した患者もいると聞いています。
全身が動かせない状態や治療法がないことなどから、ALS患者の心は「もう死んでしまいたい」と「生きていて良かった」とのはざまで激しく揺れ動きます。患者の一時の「死にたい」を鵜呑みにしないでください。患者の「死にたい」は「もっと生きたい」の裏返しです。亡くなった女性患者が訴えた『安楽死・尊厳死』を議論する前に、何が「死にたい」と言わせているのかを見極め、それを取り除く必要があります。
患者の心理的サポートの場づくりを強く要望します。特に告知直後の患者は、原因も治療法も不明に強く混乱・絶望し、先の見えない不安におびえています。難病を罹患しても楽に生きるため、この時期の『緩和ケア』をお願いします。と、長年この協議会でも訴えて参りましたが、参考資料にあるように支援体制を考えていただきありがとうございます。
ピアサポートなど、当支部もできる限りの協力をいたします。