「平成29年度(第19回)日本ALS協会島根県支部 定時総会」
7月2日 出雲保健所(大会議室)
会次第
開会挨拶
- 支部長挨拶 景山敬二
- 日本ALS協会 岡部宏生会長メッセージ
- 来賓代表挨拶 島根県健康福祉部 健康推進課課長 山﨑一幸様
- 来賓・顧問紹介
- 議案審議
- * 議長選任
- イ) 第1号議案 28年度事業報告
- ロ) 第2号議案 28年度会計報告および監査報告
- ハ) 第3号議案 役員選任について
- ニ) 第4号議案 29年度事業計画(案)
- ホ) 第5号議案 29年度予算(案)
- * 議長解任
- * 議長選任
閉会挨拶
講演会
共催:しまね難病相談支援センター
演題 「ALSにおけるリハビリテーションの役割 ~運動療法とコミュニケーション支援~ 」
講師 森脇繁登 先生 (島根大学医学部附属病院リハビリテーション部 作業療法士)
患者・家族・支援者交流会
- 挨拶 出雲保健所所長 牧野由美子様
- フリートーク
- 記念撮影
<総会報告>
当事者・県内各保健所保健師をはじめとする行政・支援者など約100名が参加。当事者は7組の患者家族(患者2名・家族4名・遺族1名・他の難病家族1名)と昨年より少なかったが、その分、交流会では突っ込んだ話合いが出来た。2大学から28名の看護学生さんが出席した。諸岡運営委員の司会により、支部運営委員 奥井学様はじめ、この1年間に亡くなられたALS患者さんを悼む黙祷から総会が始まった。
支部長挨拶は島根県立大学看護学部3年 町田夢菜さんに代読いただき、会長挨拶は松浦運営委員が代読を行った。ご来賓を代表して 島根県健康福祉部健康推進課課長 山﨑一幸様にご挨拶をいただいた。
当日の運営は、出雲保健所をはじめ各保健所・島根県立大学看護学部・島根大学医学部看護学科・しまね難病相談支援センターの皆様にお手伝いいただいた。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。
―支部長挨拶の要約―
島根県内では、ここ数年、毎年90人前後のALS患者が療養生活を送っています。2014年末の政府統計資料によると、人口の1万人あたりの患者数の全国平均が0.78人です。それに対し、島根県は1.29人であり、どこよりも多くなっています。なぜ島根は罹患率が高いのか不思議に思い、主治医に尋ねたことがあります。明言は出来ないがと前置きをされたのち、「島根と鳥取は人口に対して神経内科医が多いので、見つかりやすいのではないか。全国的に後期高齢者の診断が増えているが、地方都市に神経内科のない県もあり、そんな地域の高齢の方は身体に異変が起きてもわざわざ何時間もかけて受診しないのではないか。注意しなければならないのは、この数値は発症率ではないということ。島根はALSでも長生きできることを表しているとも言える」との回答でした。
我々患者が最も恐れているのは、TLSです。正直私も自分の意思が伝わらなくなるのは怖い。一方で、以前、『ALS患者の約8割はTLSにならない』という内容の論文を読んだことがあります。また、『ストレスの少ない患者は、進行停止や改善が起こりうる』という論文もありました。以来、「自分は8割に入るのだ」という根拠のない自信を持ち、面白いことを探してでも笑うようにしています。患者・家族の皆さん、ALSを勉強し、正しく理解して長い付き合いを乗り越えていきましょう。
30年前までは『希望なしの病気』と呼ばれ、告知の際に「不動の身体で生きていく価値はあるかな?」と言われた患者さんもいたと聞きます。治療法の研究も進んでいます。医療機器や介護用品・意思伝達装置も進化しています。「生きていてこそ価値がある」のです。
―会長挨拶の要約―
私達を取り巻く環境は、幾多の先輩達のお蔭で以前に比べれば、格段に向上しているとは言え、患者や家族は常に深い困難と直面しています。社会保障費の削減など、厳しい現実もある、一方で新しい治験が複数開始されることなど、新たな希望も生まれてきています。そういう情報は協会ホームページや機関誌などを通じてタイムリーに発信してまいります。
私はこの3年程悩んでいる事があります。私達は身体の動きを奪われるだけでなく、感情のコントロールも少し障害されます。良く知られているものとして、感情失禁があります。きっかけはあるにしろ自分の意思よりはるかに大きな感情の発露となって、笑ってしまったり、泣いてしまう事です。
この感情失禁とは別に、私達の症状には情動制止困難というものがあるといわれています。例えば、介護をされている奥さんが、子供が発熱したので夜中に病院に連れて行って帰宅したら、患者の旦那さんの第一声が足の位置を直してというもので、奥さんは本当にこの旦那さんの言葉に傷ついたというようなことです。本来であれば、「お疲れ様、子供の具合はどう?」と言うところですが、そうではなくて足の位置にこだわった発言になってしまうのです。あるいは、そんなにたいしたことでもないのに非常に激しく怒りを現したりもすることがあります。(私はこれです)
この症状のためにALS患者は気難しいとか恐いとか言われてしまいます。これは人格ではなくて、病気の症状であることを介護する方に理解をして欲しいと思います。患者自身もこの症状と上手く付き合っていくことは、人間関係のためにとても必要なことであると思います。ご支援をして下さる皆様やご家族や患者さん自身もこんな症状を理解しておくことで、関係性を良いものに保っていただければと願う次第です。
ALSは本当に過酷で、それは患者本人は言うまでもありませんが、ご家族にとっても大変なことであり、まさにどちらも当事者と言えましょう。患者や家族は孤立してしまう場合もあります。そこで、患者同士あるいは家族や関係者同士で情報や気持ちを共有することはとても大事なことと思います。
どうかこの総会で情報を得ること、また患者さん同士で交流を深めて頂ければとお願いします。
―来賓挨拶の要約―
平成27年1月から難病対策の新しい法律が施行され、昭和47年から約30年続いた「難病の患者に対する医療等に関する法律」は大きく変わりました。具体的には、医療費助成の対象疾病の拡大(56疾病から330疾病へ)があります。
島根県内のALS患者は平成29年3月末で84名いらっしゃいます。その方々への支援として、家族相談、家庭訪問、医療相談、患者・家族会支援などを行っております。島根県では、在宅患者・家族の療養支援として、国に先んじて平成21年度から『在宅重症難病患者一時入院支援事業』(レスパイト入院)を実施しております。現在22箇所の病院と契約を結んでおりますが、今後はもっと活用しやすい環境にしていこうと考えております。人工呼吸器を使用している方へのコミュニケーション支援としては、勉強会および伝の心などの貸し出し整備をしております。また、近年各地で災害が発生しておりますが、災害の時に難病患者さんを守り、安心して避難生活を過ごして頂ける様に整備しております。
難病等の家族の皆さまが安心して暮らして行けるためには、お互いが励まし合い、支え合いながら生活をすることが重要であり、患者・家族会の果たす役割は益々重要になってくると思われます。貴会の益々のご発展に期待を抱く次第であります。引き続き、県として皆さんのご要望にお応えしながら、皆さんと共に様々な取り組みをして参りますのでよろしくお願いいたします。
―来賓・顧問紹介―
来賓
島根県健康福祉部 健康推進課 課長 山﨑 一幸 様
出雲保健所所長 牧野 由美子 様
松江市議会議員 川島 光雅 様
松江市議会議員 新井 昌禎 様
出雲市議会議員 板倉 一郎 様
全国膠原病友の会島根県支部 副支部長 槇野 節子 様
しまね難病相談支援センター センター長 大場 篤 様
顧問
小林病院 名誉院長・島根大学特任教授 小林 祥泰 様
島根県看護協会訪問看護ステーションやすらぎ 所長 角 里美 様
島根県立大学看護学部 教授 加納 尚之 様
総会には所用のためご欠席となったが、県議会議長 大屋俊弘様よりメッセージを頂戴し、披露させていただいた。
澤副支部長を議長に選任しての議案審議では、いずれの議案も原案どおり承認された。
<講演会の報告>
島根大学医学部附属病院リハビリテーション部 作業療法士の森脇繁登先生を講師に迎え、演題は「ALSにおけるリハビリテーションの役割 ~運動療法とコミュニケーション支援~ 」で講演いただいた。森脇先生には、一昨年度・昨年度と協会主催で開催した難病コミュニケーション講座やシンポジウムにもご協力いただいている。
ときにユーモアを交えたお話しぶりで、アッという間に時間は過ぎていった。
自己紹介
島根大学医学部附属病院 リハビリテーション部で、作業療法士として勤務している森脇繁登と申します。普段から、神経難病の方のリハビリをすることが多いのですが、縁あって2年前からALSの方のリハビリテーションやコミュニケーションに関する支援をしております。本日は、ALSにおけるリハビリテーションの役割として運動療法とコミュニケーション支援についてお話をさせていただきます。今日もいらっしゃっていますが、島根大学総合理工学部の伊藤先生をご存知だと思います。視線入力などのコミュニケーションの第一人者ですが、伊藤先生と一緒にスイッチなどを作る活動もさせていただいています。
療養者の気持ちについてアンケート調査からの報告
ケアや療養中の気持ちなどに関するアンケート調査では、リハビリ開始時には、「理学療法士によるリハビリは、自宅で1人でできること等も教えてもらい、服薬だけでなく自分でやることもできてよかった」や「作業療法士の方との出会いは非常に心強く、気持ちの面で救われた気がした。工夫や様々なスイッチで何とかなる気がした」という良い面があります。その一方で、リハビリを始めるときはきちんとどこまでできるかの評価をするため、その結果によっては現実をつきつけられます。「リハビリは、正直、最初はショックでした。つい最近まで走っていたのに、と思ってしまい、力の入らない手が悲しくなりました。発症前は握力が両手ともに60kgあったのに・・・・などループして考えてしまうことがありました」という意見もあります。また、こういう意見もありました。「ALS患者に必要なリハビリとは何か!もっと勉強して欲しい。知らなさすぎ」。
リハビリの中でALSは希少疾患に値します。全ての療法士がALS患者さんに関われるかと言うとそうではなくて、ALSの方を担当したら、勉強したくても勉強の仕方が分からなくて困っている方も沢山いると思います。島根でもまだまだ十分ではないです。今日はリハビリの方も多く来ていらっしゃると伺っているので少しでも参考になればと思っています。
運動療法の目的と実際にしている内容
まずは、運動療法についてお話をさせていただきます。ALSに対する運動療法の目的は4つあります。1つは『機能維持と改善』。そして『残存機能の有効活用』。寝ている時間が長くなりますので『廃用症候群の予防』。そして『二次障害の予防』、肺炎などの予防ですね。この4つが目的として位置づけられています。
[スクリーンには実際のリハビリ中の画像]あと、これは私の考えるもう1つの目的ですけれども、症状が進行していくにつれて転倒をするなどで怪我をしやすくなります。リハビリだけではなく、ヘルパーや看護師、誰でも良いので症状の進行に気づき対応をすることが重要です。リハビリは体を中心とした症状も見ているので、病状の進行に伴う対応の遅れを防ぐ目的もあります。また、筋肉の評価のみならず、酸素化の評価もしながら行うことも重要です。
では、次にどのように運動療法をしているのかという内容についてお話します。まず、ストレッチと関節可動域訓練です。体位変換のたびに体が痛いと体位変換するのもいやになっていきますし、拘縮すれば安楽な体位保持も難しくなってきます。このストレッチと関節可動域訓練は全病期を通して行っていく必要があります。もう1つ、筋力訓練というのも挙げられています。これは、筋力増強・維持と両方の意味が挙げられているのですが、ガイドラインでは、軽度から中等度の筋力低下には有効であると言われています。運動することによって、呼吸筋を鍛えることにも繋がります。進行してしまってからでは、筋力訓練というのはなかなかできません。できるだけ早い時期から、進行を遅らせるという意味で、軽度から中等度の時期に行うことが重要です。ダンベルを活用したリハビリなどもありますが、私はボールを使った運動などをしています。ボールの重さや大きさを変えて、全身を使いながら筋力アップを図っています。日常生活でも持久力と言うのは大事になってきますので、自転車をこいでもらい、10分、20分と状態に応じて運動量を変えながら日常生活を維持できるようにしています。
運動療法の効果
次は、このような運動療法の効果についてお話をします。ALSの運動療法の評価は『筋萎縮性側索硬化症 機能評価スケール(ALSFRS-R)』で評価することが多いです。これは、12項目あり、1~4段階で評価します。
カナダのサスカチュワン大学の研究報告では、ストレッチ・筋力トレーニング群とストレッチ・通常の介護群の二群に分けて6ヶ月後に、総合評価(ALSFRS-R)と呼吸評価、QOL評価をした結果、筋力トレーニング群が高いスコアであったという結果があります。つまり、ALS患者にとって筋力トレーニングは呼吸やQOLの維持に有効であると位置づけられています。これは海外の研究であります。
次に日本の報告です。これは、軽度なALS患者に対して行われた有効な運動療法についての検討です。まず、対象者の運動内容は「ストレッチ98.1%、筋力トレーニング51.3%、自転車エルゴメーター34.6%、起立・立位トレーニング54.5%、歩行トレーニング66.0%、ADLトレーニング87.8%」でした。6ヶ月後の変化では、ALSFRS-Rの評価は6.7点減少していました。これは、病気の進行を意味しているのですが、ADLトレーニングや歩行トレーニングが中心に行われた患者の得点減少は3.4点と約半分と少なかったという結果でした。つまり、軽度のALS患者さんの場合には、ADLトレーニングや歩行トレーニングを取り入れると病気の進行抑制に効果があると考えられています。
日常生活におけるリハビリ
ADLトレーニングという日常生活におけるリハビリについては、景山支部長から是非お話をして欲しいと言われました。ADLトレーニングが有効だということはご理解いただけたと思いますが、ではADLトレーニングとはどのようなトレーニングであるか少し具体的に話をしていきます。
皆さん、生活がリハビリになると聞かれたことがあると思います。この写真は、農業、縫製業、銀行員のそれぞれの人の左手です。それぞれの手の形が異なることがよくわかるかと思います。普段生活をする場で活動することは、その人の生活に馴染んだ手や体になっていきます。つまり、必要な筋力や関節運動などが身についていくことになり、これが生活がリハビリになるということです。
日常生活でのリハビリでは動作方法を指導します。手が上がらなければ、体幹を倒して服を着るなどの動作を指導したりします。自分で服を着るという動作は、様々な関節を動かして行いますので、筋力維持・向上のほか、関節拘縮の予防にも効果があります。あとは、動作効率です。ALS患者さんは進行していく上で、効率良く動くことも重要になります。簡単な動きでもすごくエネルギーを要しますし、疲労も感じます。そのため、エネルギー消費の軽減や疲労感の軽減も大切です。シャンプーも手が上がらなければ、頭を下げて洗うように指導したり、体を洗うのも棒のついたたわしで体を洗うなどを提案することもあります。このようにちょっとした工夫でエネルギー消費の軽減や疲労の軽減などが行えます。
リハビリを補助する支援機器
次に、支援機器です。大学でリハビリをしていると食事の大切さを感じます。食事を楽しみにしている方も多くいらっしゃいます。食事による楽しみや食べたいというQOLを維持することはとても重要だと思っています。そのため、食べる動作を手助けするポータブルスプリングバランサーやモモ等という補助具なども利用して支援します。
運動療法や生活のリハビリについて話をさせていただきました。運動療法に関しては、重症の人を対象にした研究報告は、私が調べた限りではありませんでした。軽症の人を対象とした、進行する前に、進行を遅らせるために、どのようにするのかという報告が多いです。重症の方に関しては、個人の症例報告にとどまり、多くを集めた研究にはまだ至っていません。しかし、最初にも述べましたように、全病期を通してストレッチと関節可動域訓練は有効であるので、行っていく必要があると考えています。
そして、当事者の生活の質を良くするという意味でもコミュニケーション支援も重要になってきます。
コミュニケーションについて
今からコミュニケーションについてお話をします。
[スクリーンに岡部会長の画像]この写真は最初に挨拶をされた日本ALS協会会長の岡部さんです。岡部さんは口文字という方法を使っています。島根でも広がっていけば良いなと思っています。まず、コミュニケーション支援のコンセプトです。コミュニケーション支援は、イコール機器ではありません。よく「どの機器が良いですか」と聞かれることがあるのですが、コミュニケーションは人と人との会話です。支援の前に、相手との関係性も大切です。他にも療養環境、病状の変化や災害を含めた対応方法、家族を含めた支援体制なども重要になってきます。つまり、進行性疾患における病状の変化に応じた療養生活の1つがコミュニケーション支援であるということを忘れて欲しくはありません。
次に良く聞かれるのが導入時期です。明確な答えはありませんがご本人が導入したいと思っているときにはスムーズな導入になりやすいです。あとは、ご家族や支援者が必要と感じたときです。しかし、ご家族が必要と感じてもご本人が必要と感じてなかったら使わなくなることが多いです。そのため、支援者は導入の目的を明確にするアセスメントが重要となり、当事者は今後の療養生活で困らないために、早い時期からコミュニケーションについて考えることが重要となります。あるALS患者の意見では「伝の心は、話せるうちに導入しないと質問があっても聞けなくなる。審査を待つ間に話せなくなる可能性もある」と言われています。
これは、「ALS患者に対するコミュニケーション機器導入支援ガイドブック」にあります病状の進行とコミュニケーション支援の時期を表した図になります。
準備期では「どのようにコミュニケーションを維持するかを考え、意思伝達装置やパソコンなどを利用して何をしていくのかを検討する」ことが重要になり、操作の練習や操作性の改善が必要になってきます。利用期には、「利用している機器をできる限り利用し続けられるよう支援することだけでなく、生活の目的や意欲などの詳細な情報を集める」ことも必要となります。そして、この時期はスイッチの変更などもあるため適切な体の評価や操作方法における情報共有が重要となります。困難期には、「機器にこだわらず、広い意味でコミュニケーション手段を検討すること」が重要で、コミュニケーションがない(交流・ふれあいがない)環境を作らないことが必要といえます。
島根県のコミュニケーション支援について
島根県では、日本ALS協会島根県支部としまね難病相談支援センターおよび保健所、島根県作業療法士会という3つの団体が中心となり後方支援を行っています。島根県のコミュニケーション支援で優れている点としては、相談場所が明確であることや主な拠点施設に問題意識を持ったスタッフがいること、しかもやる気があること、そして、伊藤先生がいらっしゃることもあげられますね。
課題としては、支援の方法や技術を知っている人がわずかであること、医療職・福祉職の問題意識が乏しい、支援者間のネットワークが希薄、当事者との交流が少ないことがあります。支援構築に向けた取り組みとして、支援者育成のためのセミナー開催や、支援者を支援する取り組みとして支援者の困り事を困ったままにしないための窓口の設置などに取り組んでいるところです。
まとめ
当事者やご家族が安心して生活できるように、笑顔で過ごしていただけるように、島根県は横に長い地域ではありますが、より良いコミュニケーション支援となるよう活動していきたいと思います。これからも必要としている全ての人に支援が行き渡るように取り組んでいきますので、どうぞ宜しくお願い申し上げます。ありがとうございました。
司会者】何か質疑応答ありませんか。伊藤先生、何か一言お願いします。
伊藤先生】視線入力の器械は高価だというイメージがおありかと思いますが、ここ2年で3万円くらいになってきています。ソフトだけで良いものや安価なものも出てきています。広島支部の三保支部長は、1日で1万文字も入力され、去年だけでも40万文字も入力されているのですよね。このような方もいらっしゃるので、頑張ってみていただけたらと思います。
司会者】ありがとうございました。
<交流会の報告>
10分間の休憩をはさみ、その間にお互いの顔が見えるよう座席を転換。
出雲保健所長 牧野由美子様にご挨拶いただき、交流会がスタートした。自己紹介後、患者・家族に発言をしていただいた。
―挨拶の要約―
皆様ご苦労様です。私の祖父もALSでした。1950年代のALSですから、家で祖母がケアをしていましたがあっという間に亡くなった、と聞いています。祖父というのは時代を先取りするようなダンディな人でした。自分が動けなくなっていくのに苛立ち、祖母に当たりつけていたようでした。その時に比べると、療養の環境は大きく変わってきたと思います。しかし、療養生活が長くなったことから療養者も介護する方も様々な困りごとが生まれていると思います。交流会で情報交換を行うことで、自分のできることを考えていく場になればと思います。
―発言集―
患者1】(伝の心で発声)マスメディアが難病患者を紹介するときには、しばしば「難病と戦う~」とか「闘病生活をおくっている~」といった修飾語を使います。私は発症から17年になりますが、早い時期から闘病とは思わないようにしています。気持ちのうえだけであっても戦うのは厳しいし、疲れます。だいいち、ALSには今のところ戦うすべさえ与えられていません。副作用に耐えながらの抗がん剤治療は、まさしく闘病だと思います。しかし治すことをあきらめたわけではありません。いつかきっと治療法が開発されるでしょうから、それまで生き続けたいと思います。
司会】取材の方に聞いてみましょう。
記者】闘病と言う言葉は良く耳にしますね。我々はあまり考えずに不用意に使っているのだと思います。言葉一つ一つを大切にしたいと思います。
患者2】(パソコンでマイボイスによる発声)今年2月に気管切開手術して呼吸器を装着しました。在宅で3ヶ月、色々と問題がありましたが、支援の方々のおかげで生活が落ち着いて来ました。先日は、マツダスタジアムへカープの応援に行って来ました。
気管切開するとヘルパーさんのたん吸引の問題は、やはり大きな課題です。本来は県が開く第三種研修をヘルパーに受けてもらわねばなりませんが、法制以前の厚労省の『違法性阻却の通達』がまだ活きています。しかし、違法性阻却によるたん吸引をして頂ける事業所はなかなかありません。
ヘルパーさんの吸引研修は、気管切開手術をした病院で入院中に、2名のヘルパーさんに研修を受けて頂きました。連携室、ケアマネ、訪問看護、ヘルパー事業所など皆さんの協力で研修を行うことが出来ました。病院で初めてのことだそうです。
たん吸引について自動持続たん吸引器を使っています。このおかげで、夜起きることはほとんどありません。この導入も病院で初めてだそうです。
声が出ないので、コミュニケーションは大きな課題です。文字盤や口文字について、少しずつ広めていきたいと思います。
司会】昨年も痰吸引の取り組みとかが問題になっていましたが行政の方で何かありましたら、ご説明をお願いします。
保健師1】出雲圏域のたん吸引の現状と課題についてお話します。たん吸引ができるヘルパーさんのいる事業所は10ヶ所前後と認識しています。ただ、事業所の全てのヘルパーさんが吸引をできるわけではなくて、限られた人しかできない。ヘルパーさんが足りていないという現状があります。たん吸引が医療行為になるのでヘルパーさんの精神的負担もある。資格ヘルパーが増えない原因を出雲保健所は調査をしています。増えることの保証にはなりませんが、今できることに取り組んでいます。
司会】浜田や益田の地域はどのような状況でしょうか。
保健師2】浜田は資格ヘルパーさんの数は把握していないので、今後把握いたします。
大学教員1】第三号研修はどのくらいしているのですか。
保健師3】研修会は県が主体となりやっています。座学と実技があり、最終的に試験を受け終了になる。試験を受けてから実際にするまでに1ヶ月くらい経過すると、自信がなくなり実際はしなくなるケースもある。資格はあるが実際にはしていないという事実もあると思います。
大学教員1】私は東京都の事業で第三号研修を受けています。そして、東京の患者さんで活用していましたがスムーズでした。
保健師3】特定の人を対象とした研修と不特定の人を対象とした研修があり、特定の人を対象とした研修ではスムーズに行えています。
大学教員1】そのほうが現実的なのですよね。例えば、患者さんのところで研修を受けて学生にアルバイトをしてくれと言うこともできると思うのです。実際東京都では、学生が入っていることが多いのですよね。研修さえしてもらえば、色々なことで参考になることがあるのですから、開催していただきたいと思います。
行政1】273という数字が頭にこびりついているので、273人が資格を持っていると思います。しかし、その中の何人が第三号研修なのかは記憶にないのですが、1事業所で24時間体制のローテーションが組めるかどうかというところがネックになっているのか、対象となる人がいないのがネックとなっているのか、そのあたりが分かりません。結果が分かれば研修の再実施で対応可能なのかなどを、今再調査しているところです。
司会】今までは患者さんからの意見でしたが、ご家族の方何か?
家族1】自動吸引の器械を使って(本人は)夜は爆睡できる状況になった。ただ、ヘルパーさんでもすごく上手にしてくれる人もいらっしゃいますが、吸引ができないばっかりに食事をしても私たちは直ぐに仕事に出ることができなくなり困っているので、吸引のできるヘルパーさんが増えることを心待ちにしています。ヘルパーさんの認定に時間を要した。3ヶ月経過しても認可の下りないヘルパーさんがいるので、早く取れるようにして欲しい。家族はそれぞれに仕事があるので、そのようなところでせめぎあいなのです。
家族2】家族は本当に大変です。在宅介護がヘルパーさんの不在で崩壊しまして、病院に入院しました。ほとんど病院ですがヘルパーさんが確保できた日数だけ在宅で生活をしています。素敵なケアマネジャーさんに出会えて、訪問をしてくださることになりました。
訪問看護師1】実際にヘルパーさんがたん吸引の書類を提出したのですが、合格をいただいてから数ヶ月が経過しているのですが、まだ吸引をすることができないのです。どこでどのように止まっているのか分かりません。折角、やる気のあるヘルパーさんがいるのに手続きに時間がかかっています。
司会】この問題に対して返答できる人はいらっしゃいませんか。
行政2】担当部署ではないのですが、状況は分かりましたので、その担当課に持ち帰りまして、実情はどのようなものか確認をさせていただき、ご返答をしたいと思います。現在、高齢者福祉課や障がい福祉課などとも連携して研修について検討をしているところです。患者2】申請書類が難しすぎる。小さい事業所では書類を作るのが難しい。
行政1】国の制度の下で動いているので、実際作るのが難しいとは聞いています。そこも検討すべきところですが、「医療行為でもやっても良いよ」ということになっているが、何でもやって良いよというわけではないため書類が難しくなっている。そこも検討して行きたいが、県だけでは上手くいかないことも多いと思います。
家族1】昨年までは、泣いて、泣いておりましたが、すごく皆様に援助していただいている。今後も後に続く人のためにも本人にも前に出るように話をしていますが、多くの人に助けていただいており、感謝の気持ちでいっぱいです。
家族3】1ヶ月毎に病院と在宅を行き来しているが、在宅体制が日々厳しい状況になって来ています。今は年1回の三号研修なので、1回より、受けたいときに直ぐに受けられるようになればと思います。病院で長く(レスパイトを)受けてもらうのも難しくなってきたので、困っています。
司会】病院では何故長く入院ができない状況になって来ているのでしょうか。
家族3】分かりません。最近も言われましたので、病院には何かの事情があると思います。私も仕事もありますし、このままでは仕事も続けられないと困っています。
司会】難病相談支援センターのほうでは、何か情報をキャッチされていませんか?
難病医療専門員】病院によってだと思います。全体を見ると、受け入れが良くなってきていると思います。受け入れ先が集中していることも問題とは思っています。
司会】難病支援のほうでその他に考えている問題とかはありますでしょうか。
難病医療専門員】地域によっては受け入れ先がないので家から遠く離れなければならない。入院の条件が厳しく入院できないところなどもあると思います。
家族4】私のところは病院にいつも居ます。発病から長いので体は動きませんが、歌手のショーなどに外出しています。病院に全て任せるのではなくて一緒にしていくことが大事で、上手くいくと思います。夜の寝る21時から22時くらいまでは自分が傍にいます。看護師さんの泊まりは2人で30人の患者さんを看ているし、看護師1人で15人ですよ。20時頃にコールが鳴り出すと一斉に鳴るので多少看護師さんを手伝ってあげないと大変だと思う。
顧問1】レスパイトの問題の1つにはコミュニケーションがあるようですので、付き添いができる時間を予算化してもらったのですが、ケアは分化しているのであまり使われていないのですか。
家族1】食事介助なども全てしていただいているのですけども、吸引だけができなくて家族が家を空けることができないということです。
顧問1】ヘルパーさんが入っていただくのは活用されているのですよね。
家族1】家族なみにしてくださる人はいます。
顧問1】今後は、ヘルパーの資格が取れるときにオプションとして資格を取れる仕組みを作ることが良いのではないかと思う。
行政1】実は、ヘルパーさん自体が大変不足していて、研修になかなか出せないという事情があります。しかし、出せるようになった時に書類などの問題がネックになっているのではないかと思います。
顧問1】ヘルパー受験者に国では難しいが県レベルで同時に取得できることはできないのですか。
行政1】そのような意見があったことを担当課に伝えます。
顧問1】今いる人に資格を取らすには事業所は出しづらいかもしれないが、これから取る人に向けてだと大丈夫だと思える。また、吸引をして生命の危機に陥らすよりも吸引をせずに窒息になるほうがもっと怖いと思う。技術に関しては、島根大学にシュミレーションセンターもあることですし、活用したら良いと思う。
顧問2】訪問看護ステーションで訪問看護をしています。1日3回訪問している人には、補填1回を導入し4回の訪問をさせていただいております。しかし、訪問は点で支える支援ですので、ヘルパーさんにいていただくことは重要です。線で療養者を支えるにはヘルパーさんの負担が大きくなっているのだろうなと思いながら聞いていました。吸引の資格を持っていても家庭の事情もあり看護師同様全てが活用できていないので、ヘルパーさんのマンパワーも問題であると思います。
顧問3】ALS患者のコミュニケーションの支援に脳波を使って研究をしているのですが、実用化に向けて研究も進んできているので、今後変わってくると思います。
学生代表】在宅ボランティアサークルに入り3年目になります。サークルでは、ALS患者さんのお宅に月1回程度ですが訪問をさせていただいています。最初はどのようにしてよいのか全く分かりませんでした。しかし、ご家族や療養者の方が大変親切にしていただけることから、一緒に過ごしているうちにコミュニケーションが取れるようになってきて、これをしたら喜んでくれるかな?とか考えられるようになってきました。私自身も看護学生としてあと1年ありますが、療養者の方やご家族がどのような思いを持ちながら生活をされているのかを良く理解したうえで、これから勉強をがんばって行きたいと思います。
終了後、最後まで残っていただいた参加者で集合写真を撮影した。来年は松江市での開催を予定しており、再会を約束して散会した。
記録:島根県立大学看護学部講師 阿川啓子先生
写真撮影:長岡望
文章構成責任:景山敬二